事例紹介

Episode01 | 一等地に不動産を持つ老父と子3人、そして養子

子供たちとは、
もう何年も話もしていない

妻が施設に入所してから、その父親は広い家に一人で暮らしている。 高齢で足腰も弱り、車いすを使う場面が多くなった。 自分の人生、もうこの先長くはないことは承知している。 他人から見たら自分の今の境遇は実に寂しく映るかもしれない。だが一方で、羨ましくも思われているだろう。マンション、アパートなど複数の不動産を持ち、羨まれるにふさわしい、十分にゆとりのある暮らしを長年続けてこられたのだから。

所有する複数のマンションを日々管理することが、父親の仕事であり生きがいだった。どの建物も設備に気を配った甲斐があり、入居者が途切れないことも自慢だ。
車いすの暮らしになる前は、1棟ずつ毎日、異変はないか見て回っていた。
実の母から相続した大切な不動産。「これをしっかり守っていけ」と言いつけられた、大切なもの。子供も同然なのだ。

子供・・・。
子供は3人いる。長女、長男、次男。
それぞれ最後に顔を見たのはいつだったろう。会えば口喧嘩になり、長女も長男も次男も、こちらの話など聞こうともしないので怒鳴りつけたら帰っていった。もう思い出せないほど昔のことだ。
3人とも好き勝手にやっていて、自分の世話をしようという気持ちなど微塵もないらしい。
誰一人、訪ねてきやしない。5年、10年話もしていないから、どうしているかもわからないし、何を考えているかなど想像すらできない。

長女はこれまで夫とともに、両親との同居を2度試みていた。
「不動産を必ず守れ。金は渡すから」という父の言葉に、さまざまなことに我慢しながら生活をともにしてみたが、全くうまくいかなかった。父は昔から、子供を奴隷のように使う人間だったと思う。両親も高齢になり、自分も大人になり、少しは何かが変わっているかと期待もしたが、結局、高慢な父親の態度は何も変わっていなかった。

長男、次男にしても同じだ。

それぞれ父親から「金は渡すから不動産を守れ」「おまえに相続するから不動産を守れ」という言葉を掛けられていた。だが、父親と接点を持つたびに、高圧的で自分勝手な父親の態度、愛情を感じることなく過ごした幼少期のトラウマがよみがえった。

年老いて心細い様子を見せる父親の姿には感じるものはあるが、「関わりたくない」というのが正直なところだ。もう関わりたくない。何億という資産、不動産の相続に関すること以外は。

父親の家には、ある頃から身の回りの面倒を見るお手伝いのAさんが出入りしていた。
寄り付かない3人の子供たちには何も期待できないと考える父親にとって、Aさんとその家族との関わりだけが、唯一頼ることができるものになっていた。

だから子供には内緒で養子縁組を企んでいた。
「大切な不動産はしっかり守っていきますから」と、Aさん家族も快く応じてくれた。

Aさんはプライベートコンサルタントの前でぬけぬけとこう言った。 「お爺さんの面倒をみるのもせいぜいあと2年。 不動産はいずれ困れば売却すればいい。遺言書を早く書き換えてくれると私たちも安心できるのだけど…」 Aさんの本性が垣間見える瞬間だった。

父親は、プライベートコンサルタントが訪ねてきた時こう言い放った。 「家族会議?嫌だよ、子供と今さら話すことなんて何もねえよ」

子供にしてきたことの後ろめたさもある。自分を嫌っている子供たちと家族会議など、成り立つはずはない。
「子供の話なんか聞いていたら進まねえよ」

プライベートコンサルタントは言った。
「今、お父さんには二つの選択肢があります。このまま何も伝えず死んでいくのか、生前に子供たちと話すのか」
「親としての見本を見せてくださいよ!」

父親、下を向いて黙る。
「今回一番大切なことは、Aさんと不動産を守ること。起きてしまったことは仕方ない。遺留分の数字は、請求されると発生するものであって、請求されなければ発生しない」

「会うなら会ったってかまわねえよ…でも、喧嘩になったらどうしよう」
弱気な発言。

「まず、ずっと会っていないお子さんたちに、私たちが会って話を聞いてきます」
父親の表情が変わった。
「え?子供たちに会って話を聞いてくれるのか?」

「お子さんたちがいま何を考えているのか、あなたに何を伝えたいのか、お一人ずつ全員に私たちが聞きます。そしてお伝えします」
その後、プライベートコンサルタントは3人の子供たち全員と何度も個別面談を行った。丁寧に丁寧に、彼らの気持ちを聞いた。

そして、ついに父親との家族会議の日を迎えた。
実家に集まった子供たちは、背を丸め一層小さくなった父親の姿を見て最初は黙っていた。
プライベートコンサルタントのファシリテーションで、一人一人が話し始める。

「父さんは、子供のころから私の話を何も聞いてくれなかった」
「あの時約束していたのに、父さんには突然ハシゴをはずされた」
「家族のだんらんなんて、うちにはなかった」
感情が先走り、父親を責める言葉が次第に強くなる。

父親も負けていない。

「何言ってんだお前らは!親が年老いて車椅子になって困ってるってのに、なんで来ないんだ。この馬鹿たれが!
財産だけもらっていくつもりか?」

静かに様子を見つめていたそのあと、プライベートコンサルタントは切り出した。
「これって、どちらが悪いとかの話ではないんですよ」
一同がピタリと止まった。

家族には戻る力がある、という。
さんざん言いたいことを吐き出した家族が出した結論は…

プライベートコンサルタントとは